[コラム]絵本の読み聞かせと「きずな教育」 〜子どもの心を起点とした、双方向性コミュニケーション・倫理観・自己修正の芽生え〜
2026年05月27日
1. 絵本の読み聞かせが育む子どもの心
絵本には、さまざまな楽しみ方や学び方があります。
物語を楽しむ。
絵を見て、想像する。
読み聞かせの声に耳をすませる。
親子で、あるいは先生や友だちと、同じ物語の世界を分かち合う。
この時間の中で、子どもたちは様々なことを感じながら成長していきます。
特に、絵本の読み聞かせは、子どもの心が動き、その心の動きを大人が受けとめる、大切な時間になります。
例えば、悲しさ、うれしさ、こわさ、安心感、「もう一回聞きたい」という思い。
このような子どもの心の動きは、すぐに言葉になるとは限りません。
表情や沈黙、笑い、しぐさ、身を寄せるなどの行動として表れることもあります。
心の成長には、子どもが自分の感じたことに少しずつ気づき、他者との関わりの中で心を育てていく、という大切な過程があるのです。
本コラムでは、絵本の読み聞かせから生まれる子どもの心の動きを起点にして、「双方向性コミュニケーション・倫理観・自己修正」*の芽生えがどのように育っていくのかを考えていきます。
- *双方向性コミュニケーション: 一方的に伝えるだけでなく、相手の行いや思いを受けとめ、自分も応答していく関わり
- 倫理観:よいことをよいと感じ、困っている相手に心を向ける力
- 自己修正:相手との関わりの中で、自分の行動やあり方を見つめ直し、よりよい方向へ変わっていく力
井之上喬氏は、この3つをもとにした関係構築活動がパブリック・リレーションズ(PR)であると説明しています。
2. 『なかなおり』と『そらとぶキリン』が育てるきずな
きずな絵本シリーズ第1弾『なかなおり』は、相手の気持ちを考えること、勇気を出して話すこと、悪いと思えば謝ることを、物語・歌・踊りを通して楽しく学ぶことができます。
「あの子の気持ちを考えよう♪」
「勇気を出して話そうよ♪」
「悪いと思えばごめんなさい♪」
「そしたら ふたりは なかなおり♪」
ここには、相手との「きずな」を結び直すための大切な流れがあります。
相手の気持ちを考える。
勇気を出して伝える。
自分の行動を見つめ直す。
そして、もう一度関係を結び直す。
『なかなおり』は、倫理観・双方向性コミュニケーション・自己修正から仲直りへと向かう流れを、「言葉」と「行動」として子どもたちに分かりやすく伝える絵本です。
一方、第2弾の『そらとぶキリン』は、「言葉」や「行動」の手前にある、子どもの思いや感情に目を向けており、読み聞かせに最適の絵本です。
物語を聞いて心が動く。
登場人物の気持ちを感じる。
読み手の声や表情を通して、物語の世界に触れる。
そして、
自分の心の中に生まれた思いを、少しずつ受けとめていく。
『そらとぶキリン』の読み聞かせでは、「きずな」について言葉で教える前に、子どもの心が安心して動き、その心の動きが人との関わりへつながることを伝えられるでしょう。

『なかなおり』 2018年7月発売
朝日学生新聞社

『そらとぶキリン』 2026年5月発売
日本パブリックリレーションズ研究所出版局
3. 読み聞かせに生まれる、静かな双方向性コミュニケーション
読み聞かせでは、読み手と子どもの間に、静かな双方向性コミュニケーションが生まれます。
読み手は、文章や絵、句読点や余白に導かれながら、物語の気配や登場人物の心情に触れていきます。
読み上げる声や表情には、読み手が物語をどう受けとめたかがにじみ出ます。
子どもは、その声を聞きながら、物語だけでなく、読み手の心の動きにも触れていきます。
子どもが笑ったり、黙って聞いたり、思いがけないところで反応したりする。
読み手もまた、その反応を受けとめながら、子どもが何を感じ、どこに心を動かしているのかを少しずつ知っていく。
それとともに、子どもを愛しく可愛いなと思うものです。
言葉のやりとりだけではなく、声、表情、沈黙、しぐさ、同じ場面を見つめる時間といった静かな往復の中にも、たしかな双方向性コミュニケーションがあります。
読み聞かせは、読み手と子どもが互いの心の動きに触れ合い、ともにきずなを深めていく時間なのです。
4. 感情の共有が、倫理観の土台になる
倫理観は、「これはよいことです」「これは悪いことです」と言葉で教えられるだけで育つものではありません。
その手前には、出来事と感情を結びつける経験があります。さらに、出来事・感情・他者を結びつける経験もあります。
だれかが悲しんでいる。
助けてもらうと安心する。
だまされるとこわい。
大切にされると心があたたかくなる。
うれしいことは、相手にとってもうれしい。
悲しいことは、相手にとっても悲しい。
読み聞かせで、こうした感情を共有することが、よいことをよいと感じ、悪いことを悪いと感じる心の土台になっていきます。
子どもは、物語の中で、登場人物の行動や表情、出来事の展開に触れながら、さまざまな気持ちを経験します。
その中で、相手にも心があること、自分とは違う思いを持つ人がいること、誰かを大切にする行動があたたかな関係を生むことを、心の動きとして受け取っていきます。
絵本の中での経験の積み重ねが、単なる好き嫌いを超えて、よいことをよいと感じ、他者に心を向ける倫理観の土台を育てていくのではないでしょうか。
5. 自分と他者の気持ちに気づくことから、自己修正は芽生える
自己修正もまた、「反省しなさい」「直しなさい」といわれるだけで育つものではありません。
まず、自分の心が動くこと。
その心の動きに気づくこと。
そして、他者にも心があると知ること。
そこから、自己修正の芽生えは始まります。
読み聞かせの中で、子どもは登場人物の行動に触れます。誰かが困っている場面、助けられる場面、思いがすれ違う場面、勇気を出す場面に出会うでしょう。
そのとき、子どもの心には、さまざまな感情や思いが生まれます。
その心の動きに読み手が応答することで、自分の感じ方だけでなく、相手にも気持ちがあることを知っていきます。
自分とは違う感じ方をする人がいることや、誰かの行動が他者の心に影響を与えることも、少しずつ受け取っていきます。
こうした経験の積み重ねが、自分の思いや行動を見つめ直し、相手の反応を受けとめながら関わり方を変える力(自己修正)へとつながるのです。
自己修正は、子どもを外から無理に変えることではありません。
自分と他者の気持ちに気づき、子どもの内側から少しずつ芽生える力なのだと思います。

6. 現代だからこそ大切にしたい、読み聞かせの時間
現代の子育て環境は、忙しさやメディア接触時間の増加などにより、大人と子どもがゆっくり向き合う時間を意識して持つことが難しくなっている面があります。
でも、声や表情を通して心を通わせることはなによりも大切です。
読み聞かせという、子どもの心を誰かが受けとめる時間、同じ物語を見つめながら心を通わせる時間を、意識して取ってみてはいかがでしょうか。
家庭でも保育園・幼稚園でも取り入れやすいのが読み聞かせの良さです。長い時間でなくてもよいと思います。完璧に読まなくてもよいと思います。
大切なのは、子どもと同じ物語に向き合い、子どもの心の動きをそばで受けとめ、ともに過ごすことです。
7. 子どもが育つ環境を整える
『そらとぶキリン』は、登場人物たちの倫理観・双方向性コミュニケーション・自己修正が、新しいきずなへとつながっていく物語として描かれています。
物語を読み聞かせる時間には、絵本の中に描かれた関わりと、読み手と子どもの間に生まれる関わりが、静かに響き合うことでしょう。
絵本を読む。
声を聞く。
心が動く。
その心の動きが受けとめられる。
読み聞かせは、物語を届ける時間であると同時に、読み手と子どもが互いの心の動きに触れながら、きずなを深めていく時間でもあるのです。
もちろん、子どもの心は、大人が無理に引っ張って育てるものではありません。
大人は、子どもが育つための環境を整えます。言葉をかけ、関わりを支えますが、芽を出すのは子ども自身です。
種を引っ張っても、芽は出ません。あたたかな土と水と光があってこそ、種は自分の力で芽を出していきます。
倫理観や自己修正も、同じように、あたたかな関係の中で少しずつ育っていくものではないでしょうか。
子どもは、ひとりで孤立して育つのではありません。
大人との応答的なやりとりの中で、言葉や社会性、ものごとを理解する力を少しずつ育てていきます。
絵本の読み聞かせも、そのような関係性を育てる営みのひとつだと考えています。

